妊娠による母体の生理的変化について正しいのはどれか.
a 血圧は上昇する.
b 循環血液量は減少する.
c 機能的残気量は減少する.
d 末梢血の白血球数は減少する.
e インスリン感受性は亢進する.
第113回 医師国家試験問題解説【113E5】
一般問題ですので、早速解説していきます。
本問では妊娠による「母体の生理的変化」をきちんと理解しているか、ということが問われています。
ここで、妊娠による母体の生理的変化を臓器別にみていきましょう。
循環器系の変化
妊娠中には母体の体重は徐々に増加していきます。加えて、胎児に供給するための血液を確保するためにも、循環血液量は増加していきます。
そのため、心拍出量が増加し、心臓の負担も増加するために左心肥大傾向となります。
更に、妊娠によってプロゲステロンの量は増加します。プロゲステロンは平滑筋を弛緩する作用があるため、末梢血管抵抗は減少し、血圧はやや低下します(それほど変化のない場合もあります)
妊娠による母体の "循環器系"の変化についてまとめておきましょう。
母体の "循環器系"の変化
- 循環血液量 ⬆︎
- 心拍出量 ⬇︎
- 左心肥大傾向 ⬆︎
- 平均動脈圧 ⬇︎
呼吸器系の変化
妊娠し週数が進んでくると横隔膜が挙上し、肺の体積が物理的に減少します。
そのため、機能的残気量が減少して、代償的に1回換気量が増加します。
妊娠による母体の "呼吸器系"の変化についてもまとめておきましょう。
母体の "呼吸器系"の変化
- 1回換気量 ⬆︎
- 機能的残気量 ⬇︎
- 肺活量(VC: Vital Capacity ) ➡︎
- 呼吸性アルカローシスに傾く。
血液系の変化
妊娠中は循環血液量が増加するために、全身の赤血球量よりも総体的に上回ってしまい、血中の赤血球の量は総体的に減少してしまいます。
そのため Hct や Hb は低下し貧血様の症状を来たします。
この貧血様の症状のことを、「水血症」ということもありますが、双胎妊娠では特に水血症状が起こり安いとも言われています(101F2で出題)
同様に血清アルブミン値も薄まってしまうことで減少します。
凝固系は活性化し、赤沈は上昇します。これは分娩時の出血に母体が備えているためともいえます。
白血球数は正常の女性よりも多くなり、9,000〜12,000/μL まで増加します。これは多核白血球や骨髄球が増加するためです。
代謝系の変化
妊娠中の糖・脂質・蛋白質の代謝は胎児を発育させるために、妊娠中期から変化していきます。
糖代謝に関しては、胎児への糖の供給を増加させるためにインスリン抵抗性は増加し、母体の糖利用を低下させようとします。
そのため、母体はインスリン抵抗性が増大するために糖尿病になりやすいのです。
第113回 医師国家試験問題解答【113E5】
以上より、解答としては c 機能的残気量は減少する となります。