おすすめの参考書がれば、まず一冊教えて欲しいです。
その際には、まず何から始めれば良いのかわからない事が多いです。
今回は臨床研究を行うにあたって、非常に強くオススメできる本、福原 俊一先生の【臨床研究の道標 上巻 第2 版】についてのレビューをまとめていきたいと思います。
特に本書は、臨床研究に関する研究や論文作成を始める医者4,5年目の先生向きの内容となっています。
一部本の中から抜粋を行い、引用させて頂きますがご了承ください。
「臨床研究の道標」は上巻と下巻に分かれていますが、今回は上巻について解説していきます。
今回紹介するのは第2版の改版になりますが、大きな変更点は本の最後に「ワークブック」が記載されているという点です。
そのため、自身で設定した研究課題の練習を行うことが出来ます。
また、本の所々に「去未夢(こらむ)」という楽しいお話が乗っているのも魅力的です。
それでは早速、臨床研究を行うためにオススメの参考書を紹介します。
研究に向き合う自分の疑問を形にする
序文
臨床研究の7つのステップ【まずは実際に行動して見ることから初める】
臨床の現場で持っている医者の「漠然とした疑問」を持っている状態から、実際に「研究の基本設定図」を整える必要があります。
その作業工程について本書では具体的に紹介しています。
作業工程の7ステップについて引用させて頂きます。
「漠然とした疑問」から「研究の基本設計図」への7つのステップは以下の様になっています。
- 疑問を構造化する
- 先人に学ぶ(わかっていること、わかっていないことを学ぶ)
- 疑問をモデル化する
- 測定をデザイン化する
- 研究の「型」を選ぶ
- 比較の質を高める
- 倫理的配慮を行う
【引用】臨床研究の道標 第2版 上巻
この流れに従って、本書は解説されています。
本書では、CQ(Clinical Question) を臨床の現場で思いついてからすぐにデータ収集をすることに注意換気されています。
その前にキチンと研究内容を十分に吟味する必要があると警告しています。
これは自分自身にも当てはまることであり、反省しました。
そこで、本書では上記の7ステップと併せて「臨床研究の7つの御法度」を明記しています。
臨床研究 7つの御法度
- データを取ってから研究デザインを考える(泥縄)
- リサーチ・クエスチョン(RQ)が曖昧・具体的ではない
- 対象とセッティングを明示しない
- 主要な要因やアウトカムを設定しない
- 変数の測定方法の信頼性と妥当性を検討しない
- 研究の型や解析デザインを事前に決めない
- 結果の解釈:臨床的・社会的な意味を検討しない
【引用】臨床研究の道標 第2版 上巻
この御法度に当てはまる方はいませんか。
我々忙しい臨床医は、CQが決まるとすぐにデータを取ってしまいがちですが、急がば回れ の精神で研究テーマを決めていくことが重要ですね。
私もデータ収集をする前に原点に戻って研究デザインを練ろうと思います。
自分のCQ(疑問)はどのパターンに集約されるのかを考える
本書では、多くの医療者の研究計画は主に4つに集約されると説明しています。
あなたの疑問に答える研究は4種類(4つのCQ)
- 病気や診療の実態を調べる研究
- 診断法を評価する研究
- 要因とアウトカムとの関係を調べる研究
- 治療・予防法の効果を調べる研究
【引用】臨床研究の道標 第2版 上巻
まずは自分自身のCQがこの4つのうちのどれに当てはまっているのかを確認した上で、研究計画を進めていくことが重要と考えさせられました。
「7つの御法度」に当てはまっていないことを確認した上で、自分のCQから発生する研究がこの4点のうちにどれに当てはまるのかを考える必要があります。
クリニカルクエスチョンとリサーチクエスチョンの違い
リサーチクエスチョン(RQ)は何かを考える。
CQを考えたのみでデータ収集をするのではなく、それをまずは明確で簡潔な文章に言語化する必要があります。
本書では" CQをリサーチクエスチョンに構造化する 必要がある" と唱えています。
以下本書からの引用になります。
リサーチ・クエスチョン(RQ)
- RQ とは何か(研究で明らかにしたいことを宣言したもっとも短い文、研究計画に最低限必要な要素で構成されている。)
- なぜRQ が必要か。(漠然としたCQを研究によって回答可能な形に構造化する、実行までに必要な作業を洗い出す。)
- ご利益(他の研究者とのコミュニケーションが容易になる。明らかにしたいことが明確隣、自分の頭が整理される。)
RQは「研究の骨組み」「研究全体を支える基盤」である。
【引用】臨床研究の道標 第2版 上巻
まずはRQを明確にして研究内容の下ごしらえをする重要性が非常によく分かりやすく、記載されていました。
細かい内容は本書を是非熟読してください。
RQのための良い条件| PECOとPICOについて
PECOとPICOについて
著者の福原俊一先生は、良いRQに求められる基準として" FIRM2NESS "を提唱されています。
このFIRM2NESS は良いRQに求められている基準の単語の頭文字から取られていますが、どれも非常に重要なポイントが記載されており、論文を書く前には必ず目を通す様に私も付箋をつけています。
本書では良く、PECO とPICOという言葉が出てきます。
この違いを知ることが重要です。
まずはPECOの説明です。
- P :Patients(Participants) 誰に(対象者)
- E :Exposure ある要因があると
- C :Comparison その要因がない(またはその要因がある)能登比較して
- O :Outcomes どうなるのか(効果)
次にPICOの説明です。
- P :Patients(Participants) 誰に(対象者)
- I :Intervention ある介入をすると
- C :Comparison その要因がない(またはその要因がある)能登比較して
- O :Outcomes どうなるのか(効果)
このPECOとPICOの違いは2番目の"E" と "I" の違いだけですが、ここが非常に重要です。
要因なのか、介入なのかで、「観察研究」か「介入研究」かが変わってくるからです。
しかし、研究の中ではPECO にもPICO にも当てはまらないものもあります。
例えば、人工知能を用いた画像診断の診断方法に関する研究はPECOには当てはまりません。
人工知能を用いた画像診断法の感度や特異度に関する研究はまた別物になります。
そして重要なことは、PECO、PICOを設定した後に、それらの要素が福原先生が提唱されているFIRM2NESS に合致しているかチェックすることが重要。ということが良く分かりました。
FIRMNESS について
福原俊一先生は著書の中で「FIRM2NESS」という概念を提唱されています。
「FIRM2NESS」とは良いRQに必要なポイントをまとめたもので、私自身も研究の際にはリサーチクエスチョンができたときに必ず確認する様にしています。
以下、「FIRM2NESS」について引用して解説していきます。
Feasible 実施可能
Interesting 真に興味深く
Relevant 切実な問題
Measurable 科学的に測定可能な
Modifiable 要因・介入が修正可能な、アウトカムが改善可能な
Novel 独自性があり
Ethical 倫理的で
Structured 構造化された
Specificc 具体的・明確な表記を用いて
【引用】臨床研究の道標 第2版 上巻
詳細は本著を見ていただきたいですが、ここに記載された項目はどれも非常に重要なものばかりです。
RQができて研究テーマを決める際には必ず一つ一つ確認したいものです。
"第3の因子" について
本書ではE(Exposure) とO(Outcome) に関係する因子のことを"第3の因子"と名付けています。
この第3の因子はEとOに関与するパターンによって、予後因子、中間因子、交絡因子、効果修飾因子、に分類することができると記述されています。
詳しくは本書をみていただきたいのですが、この第3の因子を具体例を挙げつつわかりやすく解説してくれているところもこの本の魅力です。
臨床研究の道標を読む際の注意点
臨床の道標では、臨床研究を行うにあたっての非常に基本的な内容についての「導入本」として使用するのをお勧めします。
しかし、具体的な統計学についての学習方法や、臨床的なデータの集め方、論文の記載の仕方の流れ、またPECOやPICOに当てはまらないケースについての記載ほほぼなく、他の参考書を参考にする必要があると感じました。
全く臨床研究に触れてきたことがない方にとっては、PECO/PICOwを把握すること。またそれが、本書が唱える"7つの御法度"に当てはまっていないか。
また、FIRM2NESS に記載されているかどうかを確認する、という流れが具体的な流れで学ぶことができただけでも十分に読む価値はあると思います。
研修医の方はまず本書を読み、論文発表に備えてください。
なお、巻末に記載されているワークシートは認定NPO法人 健康医療評価研究機構(i Hopw International)のウェブサイトからダウンロード出来ます。
上巻、下巻がありマスが、共に臨床研究を始める際に必ず熟読しておきたい2冊です。購入したのちも、臨床研究を行い際に読み直す様にしておいてください。